[TJOコラム] 7つのトピックで振り返るグラミー賞2021

[TJOコラム] 7つのトピックで振り返るグラミー賞2021

今年は日程がズレて3月14日にLAで行われた第63回グラミー賞。今までと違い無観客で、さらに会場も数ヶ所に手分けしての中継という異例のスタイルで行われた。
開催から時間が経ってしまったけど、「今年のグラミーってどんなだったの?」というあなたのために、今回の気になった受賞やライブパフォーマンスの動画を7つのトピックにまとめてみました。


1. 女性アーティスト大活躍の主要4部門

まずは主だった賞を。まずグラミー賞の主要4部門って何?ってところから

・最優秀アルバム賞 (Album of the Year)=アルバムに贈られる
・最優秀レコード賞 (Record of the Year)=シングル曲に贈られる
・最優秀楽曲賞 (Song of the Year)=レコード賞が歌ったアーティストに贈られるのに対して、作曲、作詞者に贈られる
・最優秀新人賞 (Best New Artist)=その年に目覚ましい活躍をした新人に

今年はその受賞者が全て女生アーティストだった。

最優秀アルバム賞はTaylor Swift『Folklore』。8枚目となるこのアルバムは去年のコロナ渦で制作〜サプライズ・リリースされ、前作までのポップから打って変わってのアコースティック・サウンドがメインのフォーク・アルバムとなっている。製作陣にもグラミー賞ノミネート経験もある人気インディーロック・バンドThe NationalのメンバーAaron Dessnerや、Kanye Westやjames Blake周辺でも大活躍するBon Iverなどを迎え、意外ながらも適材適所なキャスティングと共に時代と共振したアルバムの世界観が高く評価された。これでテイラーは女性として初めて3度目のアルバム賞の受賞を果たした。

Taylor Swift – cardigan / august / willow (Live From The 63rd GRAMMYs ® / 2021)

最優秀レコード賞はBillie Eilish「everything i wanted」。ビリー・アイリッシュは昨年の快進撃に続き、今年もレコード賞を獲得し、これで2連覇だ。さらに彼女は映画「007」の主題歌でもある「No Time to Die」で最優秀映像作品楽曲賞を受賞。ちなみに映画はまだ公開されてない。

Billie Eilish – everything i wanted (Live From The 63rd GRAMMYs®/2021)

最優秀楽曲賞はH.E.R.「I Can’t Breathe」。このタイトルは去年アメリカで起こったアフリカ系アメリカ人への暴力に対して抗議するためのムーヴメント「Black Lives Matter」のスローガンの一つにもなった、5月に白人警官によって首を押さえつけられ死亡した故ジョージ・フロイド氏が亡くなる直前に残した言葉(息が出来ない)で、こういった黒人殺害事件の被害者たちへ捧げられた楽曲だ。

H.E.R. – I Can’t Breathe (Official Video)

最優秀新人賞はMegan Thee Stallion。特に彼女の活躍はめざましく、この賞以外にもBeyonceをフィーチャーし大ヒットした「Savage」で、最優秀ラップ・パフォーマンス、最優秀ラップ・ソングも受賞。
そのBeyonceだが、主要部門は逃したもの「Savage」での2賞に加え、「Black Parade」で最優秀R&Bパフォーマンス、「Brown Skin Girl」で最優秀短編ミュージック・ビデオと4冠を獲得した。これで同賞における彼女の累計受賞回数が28回に達し、女性として史上最も多くのグラミー賞を受賞したアーティストとなり、さらにMegan Thee Stallionは自身のスピーチでどれだけBeyonceに憧れ、彼女の背中を追いかけて来たかを語り、改めてその圧倒的な存在感を証明した。これらが収録された彼女のアルバム『The Lion King: The Gift (Deluxe Edition)』はとても素晴らしいアルバムなのでぜひ!

さらにBeyonceとグラミー賞の関係については音楽ライターの池城美菜子さんによる記事が面白かったので、ぜひ読んでみて欲しい。
>>>「ビヨンセとグラミー賞:音楽ライター池城美菜子が紐解く」

話を戻して、新人賞のMegan Thee Stallionは自身のライブ、そしてCardi Bとの「WAP」のパフォーマンスが今年のハイライトかってぐらい最高でした。

Megan Thee Stallion – Body (2021 GRAMMYs) [1/3]

Megan Thee Stallion – Savage Remix (w. Beyoncé) (2021 GRAMMYs) [2/3]

Megan Thee Stallion – Savage Remix (w. Beyoncé) (2021 GRAMMYs) [3/3]

Cardi B and Megan Thee Stallion Wap/Up Grammys Performance 2021


2. BTSのノミネートが話題になったポップ部門

中でも最もホットなトピックだったのは間違いなくこの部門だったはず。2人以上やグループに送られる最優秀ポップ・パフォーマンス(デュオ/グループ)でのBTS「Dynamite」のノミネート。残念がら受賞はLady Gaga & Ariana Grande「Rain On Me」に渡ってしまったが、韓国ポップス、そしてアジア発の音楽にとっても大きな一歩となったはず。アメリカの音楽業界では長きに渡ってレコード会社やラジオ局のトップが権力を持ち、シーンの流れを作る傾向は世界中どこでもある話だけど、SNSの発展に伴ってそれがよりリスナーやファンのものへと移行し、BTSのようにしっかりとファンとの関係値を作り上げていくようなアーティストは新たな希望の星となった。そして来年以降の彼らの大躍進をさらに期待してしまう。

BTS ‘Dynamite’ GRAMMYs 2021 Performance[Full]

最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバムはDua Lipa『Future Nostalgia』。彼女のこの作品においての80’s回帰、ミラーボールフロア回帰は、このコロナ渦において今は味わう事のできなくなったダンスフロアの高揚感や非現実的な世界を渇望させ、さらに機能し注目を集めたように思える。

Dua Lipa – Levitating ft. DaBaby / Don’t Start Now (Live at the GRAMMYs 2021)

最優秀ポップ・パフォーマンス(ソロ)はHarry Styles「Watermelon Sugar」。オールディーズなファンク〜サイケ・ポップを見事アップデートさせたポップスのホーン・セクションを手がけるのはChance the Rapper「No Problem」のプロデュースでもお馴染み、クラブシーンの人気ユニットBrasstracksなので、この受賞は個人的にも嬉しいところ。「”触れ合う”事の出来た時代に捧げる」とソーシャル・ディスタンス以前の無邪気で時に官能的な絡みがたっぷり堪能できるMVもオススメ。

Harry Styles – Watermelon sugar (Live at the GRAMMYs 2021)


3. 新世代が大躍進のダンス部門

個人的に毎年気になっているのがこちらのダンス部門。今年はズバリKAYTRANADAの年でした!最優秀ダンス/エレクトロニック・アルバムに『Bubba』、最優秀ダンス・レコーディング(楽曲)にKali Uchis参加の「10%」がダブル受賞。これは2010年以降のSoundcloudなどのSNSを中心とする次世代ビートシーン発のプロデューサーにとっても充分意義のある出来事。Chance The RapperからGoldLink、anderson Paak.などのヒップホップからエレクトリックまで幅広く対応できる音楽性は今後もグラミー賞との相性も良さそう。


そして最優秀リミックス・レコーディングにはSAINt JHN「Roses (Imanbek Remix)」。こちらはカザフスタン出身のプロデューサーが手掛けたリミックスがTikTokなどをキッカケに世界的にバズり、なんとグラミー賞を受賞するまでに至るという夢のある話。彼はたった2年前に鉄道会社で働きながら、その夜勤明けで眠れなくなって勢いでこのリミックスを勝手に作ってアップロードしたのが始まりと言われている。それが今やDavid GuettaやAfrojackなど世界的スターDJからもフックアップされる存在に。まさに新世代の活躍が目立ったダンス部門だった。


4. 最高だったSilk Sonic

「グラミーでライブやらせて!」とTwitter上での逆オファーも話題になったBruno Marsとanderson .PaakのユニットSilk Sonicのライブは最高の一言。往年のTVショー「ソウル・トレイン」でのライブを意識したような昔ながらのコーラス・グループ的な見せ方でバッチリ「Leave The Door Open」を聴かせ、さらにロックンロールの生みの親の1人も言われ、昨年亡くなったLittle Richardへのトリビュートでまたカラーの違うロックでダイナミックなパフォーマンスを披露。今年後半のアルバムリリースを経て来年のグラミー賞の台風の目になる事間違いなし。バラードじゃなくてこういったロックンロールな曲まで収録されるのかなとワクワクしてしまった。anderson .Paakは「Lockdown」で最優秀メロディック・ラップ・パフォーマンスを受賞し華を添えた。

BRUNO MARS and ANDERSON PAAK SILK SONIC 2021 GRAMMY PERFORMANCE “LEAVE THE DOOR OPEN“

Bruno Mars & Anderson Paak [Little Richard Tribute Performance LIVE from the 63rd GRAMMY 2021]

僕が以前書いたSilk Sonicを紐解くコラム記事もぜひあわせて読んでみてね。


5. 今年も印象的だったHIPHOP/R&B部門

主だったところではやはりMegan Thee Stallionの活躍が目立ったが、今年はライブ勢も熱かった。

まず受賞関係では、最優秀コンテンポラリー・クリスチャン・ミュージック・アルバムにKanye West『Jesus Is King』がここで入るの?という意外性。もちろんゴスペルをフーチャーし、中身もそれに伴ったアルバムではあった。今や世界的に勢い止まらないラテンでは最優秀ラテン・ポップ/アーバン・アルバムにBAD BUNNY『YHLQMDLG』。さらにこれまた世界的注目を集めているアフロビーツ/アフリカンでは最優秀グローバル・ミュージック・アルバムにナイジェリア出身でBeyonceやDJ Snake作品への客演などでも知られるBurna Boy『Twice as Tall』が選ばれている。そしてR&Bシーンでは、最優秀R&Bソングに最優秀楽曲賞にも選ばれたH.E.Rも参加したRobert Glasper – Better Than I Imagined ft. H.E.R., Meshell Ndegeocelloが、最優秀プログレッシヴR&BアルバムにThundercat『It Is What It Is』、そして最優秀インストゥルメンツ/ヴォーカル・アレンジメントにはJacob Collier feat. Rapsody「He Won’t Hold You」と受賞を果たした。

ライブでは最優秀ラップ楽曲賞、最優秀ラップ・パフォーマンス賞にノミネートされたLil Baby、そして最優秀ラップ・ソングノミネートのDaBaby、さらに最優秀新人賞、最優秀レコード賞、最優秀ポップ・ソロ・パフォーマンス賞ノミネートのDoja Catらが印象的なパフォーマンスを披露してくれた。

Lil Baby – “The Bigger Picture” (Live From The 63rd GRAMMYs ® / 2021)

とにかくMVかと思うくらい舞台装置が派手!

DaBaby – ROCKSTAR feat. Roddy Ricch (Live From The 63rd GRAMMYs®/2021)

めちゃカッコいいんだけど、ついつい後ろのコーラスの女性陣のダンスに目がいっちゃいますw

Doja Cat – Say So (LIVE at the 63rd GRAMMYs)

こういうライブならではのアレンジがマジで最高!


6. 日本人も受賞

最優秀コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバムには、日本人ドラマー/パーカッショニストの小川慶太氏の所属するバンドSnarky Puppyのライブ盤『Live at the Royal Albert Hall』が選ばれた。Snarky Puppyはグラミー賞をはじめ今まで数々の賞レースを席巻していて、元メンバーのCory Henryによる「NaaNaaNaa」はメロディを聞いてもらうと分かるが、あの星野源&PUNPEEの「さらしもの」の元ネタとしても知られている。ここではライブ盤の会場ではないが小川さんの熱いパーカッションソロを。

Snarky Puppy Keita Ogawa percussion solo on Lingus


7. 怒りのThe Weeknd

やはり今年のグラミー賞で(悪い意味で)話題になったのはThe Weekndが完全スルーされた事。実際に2020年1番の大ヒットとしてまたその音楽性も評価に値するものだったにも関わらず今年はまさかのゼロ・ノミネート!これは世界中で波紋を呼んだ。噂では当初グラミーでのパフォーマンスまで決まっていたものの、スーパーボウルへの出演が決まり、グラミーを断ったらそのままノミネートも外されたとも言われている。これを機にThe Weekndはニューヨークタイムズ誌で「グラミー賞は秘密裏の委員会によって決められている。自分のレーベルにはこの賞への参加を今後2度と認めないつもりだ」としてグラミー賞との決別を表明した。ただ視聴率でもグラミー賞:6%に対して、スーパーボウル :40%以上となったら、そりゃ7億円自腹切ってでも後者を選ぶのは賢明かと。ここ数年は白人至上主義や権威主義と揶揄され時代と乖離も著しい中で今度グラミー賞はどう変わっていくかとても気になる。

The Weekndの気合の入ったスーパーボウル のハーフタイムショーについては以前記事にまとめたのでこちらもぜひ!


以上、ある意味で波乱だった今年のグラミー賞を7つのトピックで振り返ってみました。

今日紹介した楽曲はSpotifyプレイリスト”TJO Crates”にも追加してるのでぜひ合わせて楽しんでね。