[TJOコラム]Silk Sonic(Bruno Mars+anderson .Paak)を紐解く&合わせて聴きたい曲

[TJOコラム]Silk Sonic(Bruno Mars+anderson .Paak)を紐解く&合わせて聴きたい曲

早くも今年一のコラボレーションと大絶賛。しかもまだまだ話題が尽きません。
もはや説明不要のスーパースターBruno Marsと素晴らしいアルバム群や客演などで着実にキャリアを重ね、実力派として音楽シーンから絶大な信頼を誇るAnderson .Paakが「Silk Sonic」というユニットを組んで、3月5日にシングル『Leave The Door Open』をリリース。

最高!まるでタイムスリップしたかと錯覚させるような、1970年代のスウィート・ソウルを恐ろしいほどまでのクオリティで現代に復活させたこの曲はすでに「今年のベスト!」と各方面から高評価を集めている。今日は「Silk Sonicの曲とっても良かったからもっとこういうの聴きたい!でもどうやって探して良いか分からない。。」という人に向けて、今作をテーマごとに分けて紐解きながら、合わせて聴きたいオススメの楽曲を紹介していこう。

これから紹介する楽曲はSpotifyプレイリスト”TJO Crates”に追加したのでぜひ合わせて楽しんでね。


1. Bruno Mars

プエルトリコ系アメリカ人でドラマーの父親とフィリピン人で歌手、フラダンサーだった母親のもとに生まれ、幼い頃から家族と共にナイトクラブのステージに立っていたBruno。やはり彼の楽曲の魅力といえば、どんなジャンルにも対応できるメロディ・センス。R&B、ヒップホップ、ソウル、ファンク、ディスコ、ロック、レゲエなど、彼の歴代のアルバムを聴けばそれらジャンルを見事に乗りこなしたうえで、さらにどれも一流のポップスに昇華しているのがよく分かる。そしてもう一つの特徴が自身が影響を受けてきた過去のサウンドを積極的に取り入れながらも古くささを出さずにしっかりと現代的にアップデートする温故知新な才能。幼い頃からのステージ活動でMichael JacksonやElvis Presleyをパフォームしてきた彼にとって、先人達の音楽は身体に染み付くほどに大きな影響となったはず。これが顕著に出たのが2016年の3枚目のアルバム『24K Magic』だろう。80’s〜90’sのファンクやニュージャック・スウィングを現代に蘇らせた数々の大ヒット曲はもちろん、特にこのアルバムの中のバラード曲たちこそSilk Sonicにつながる重要なヒントになってくる。「ドアを開けておくから、さあ部屋に入っておいで」と歌うSilk Sonicは「さあ君の着ているヴェルサーチのドレスを床に脱ぎ捨てて」と歌う『Versace On The Floor』の(どんだけどエロいの?!)甘美でスウィートな世界観の系譜として聴くことができるし、歌詞以外のサウンド面でも『Versace〜』や90年代の名プロデューサーBabyface本人をプロデューサーとして迎えた『Too Good to Say Goodbye』など、Silk Sonicと同じようにしっかりとその時代時代に対するリスペクトとオマージュを感じることができる。

ちなみにBruno Marsは「Ricky Regal」名義でデザイナー業もスタート。フランスの老舗「LACOSTE」とコラボしたアイテムは今回のSilkl Sonicのアー写から『Leave The Door Open』のMVでもガッツリみんなで着ているので、これまた人気に火が点きそう。


2. anderson .Paak

Silk Sonicの相方となるanderson .Paakはアメリカ人の父と韓国人の母との間に生まれ、Bruno Marsとほぼ同時期2009年から活動を開始。一気に注目を集めたのは2015年のDr.Dreのアルバム『Compton』への客演から。Dreの1999年の音楽史に残る名盤『2001』以降「出る出る詐欺(笑)」と言われ16年の時を経てリリースされた新作でなんと6曲もフィーチャーされたのだ。そこからDreのレーベル「Aftermath Entertainment」と契約し、同年にはリリースしたアルバム『Malibu』がグラミー賞にノミネート。特徴的なハイトーンヴォイスでラップはもちろん、歌まで歌えて、さらにドラムを叩きながらパフォーマンスをするというハイスペックぶりはBrunoと同じくショーマンシップにも溢れている。2016年には渋谷WWW Xで初来日を果たしているが、実際にライブを観たDJ KOMORIさんが「素晴らしいライブだった。たぶんあの規模のライブハウスで観れることはもう無いんじゃないか」と言っていたのが印象的で、実際2018年にはフジロックに出演するまでに。メジャーシーンだけでなく名門レーベルStones Throwから次世代プロデューサーKnxwledgeと組んでNxWorriesなるユニットでアルバムもリリースし、大きなステージから次世代のビートをも軽々と乗りこなす姿はメジャーアングラ問わずいろんなシーンから絶大な信頼を得ている(個人的に驚いたのは2000年代に好きだったアメリカのプロデューサーユニットSA-RA CREATIVE PARTNERSのShafiq Husaynのアシスタントだったそう!)。Brunoとの交流は「24K Magic World Tour」でオープニグアクトを務めて、2017年頃からスタジオセッションをしていたのが今回のコラボの起点となっているらしい。彼の作品もジャンル様々でどれもカッコいいのだがSilk Sonic的なソウルネスという点で、偉大なるシンガーにしてMOTOWNの副社長も務めた伝説のSmokey Robinsonとのコラボレーション『Make It Better』をぜひ。


3. D’Mile

今作を語る上で欠かせないもう一人の重要人物と言えばこの人。ニューヨーク出身のプロデューサーD’Mileだ。2000年代中盤からRihannaやMary J. Blige、Janet Jacksonなどへの楽曲提供でキャリアをスタートさせ、近年ではTy Dolla $ignやH.E.R.、そしてグラミー賞にもノミネートされた新鋭シンガーLucky Dayeのプロデュースを手掛け、新世代R&Bシーンの重要なキーパーソンとなっている(彼のお母さんはバンドRoxy Musicの1982年のヒット曲『Avalon』にも参加したハイチ人歌手のYanick Etienne)。彼はSilk Sonicへと繋がる流れとして昨年2020年にBruno Marsと共に2曲のプロデュースを手掛けている。1曲は80年代に人気を集めたファンクバンドGAP Bandのヴォーカリストにして、今なおSnoop DoggやKanye West作品などにもフィーチャーされ現役で活躍するソウルシンガーCharlie Wilsonの『Forever Valentine』。そしてもう一つがここ日本で嵐にBruno Marsが楽曲提供したということでも話題になった『Whenever You Call』。特に『Forever Valentine』はアメリカのシカゴを発祥とするダンス「シカゴ・ステッピン」から派生した軽快でリズミカルなソウル調の「ステッパー・ソング」となっていて、ここでもBrunoの温故知新な手腕が冴え渡っている。またD’Mile仕事でいえばやはり次世代でありながらも、そのタッチがどこか温かく懐かしさも感じさせるプロダクションがSilk Sonicにも共通するLucky Dayeのヒット曲『Roll Some Mo』をオススメしたい。


4. Bootsy Collins

こちらは今後のSilk Sonicの作品を語る上で重要な存在になってくるはずであろうレジェンド。Silk Sonic結成のニュースが報じられた際に出てきたのが、James BrownバンドのベーシストにしてPファンクの伝説Bootsy Collinsの名前だったのだ。『Leave The Door Open』の影に隠れてしまっているが同タイミングで彼が参加した『Silk Sonic Intro』という楽曲が配信されている。こちらはたった1分の短い曲の中で爽快なファンクサウンドに乗るBrunoとPaakの二人の歌声と共にBootsy CollinsがSilk Sonicを高らかに紹介するというもの。今年の後半にリリースされる予定のアルバム『An Evening With Silk Sonic』は作品を通して一つのライブショーがコンセプトとされているのだが、そのホスト役的な立ち回りでコラボするのだろうか。今回のデビュー曲こそバラードではあったが、ここでしっかりファンクの生ける伝説を招き入れたことで、Silk Sonicの開けたドアの向こう側に広がるアルバムの世界観がどれだけカラフルなものになるか今から期待が高まる。近年のBootsy Collins参加作品でいうと2018年のKali Uchisの『After The Storm』も『Leave The〜』と合わせて聴きたいメロウ・ソウルの名曲だ。


5. 懐かしいスウィートソウル

ここからは新旧合わせて「こういうサウンドをもっと聴きたい!」というあなたのためにオススメするコーナー。彼らがインスパイアを受けたであろう1970年代のスウィートソウルでは、特にフィリー(フィラデルフィア)・ソウルの巨匠と呼ばれるプロデューサーのThom Bellはこういったソウルの傑作を70年代以降多く生み出していった。The DelfonicsやThe O’Jays、The Stylistics、The Spinnersといったソウル・グループはもちろんロックの殿堂Elton Johnまで手掛けている。また『Leave The Door Open』のストリングス・アレンジは同じくフィリーサウンドを代表する名アレンジャーLarry Goldが担当。彼はスタジオ・ミュージシャンからなるバンドMFSBやSalsoul Orchestraのメンバーとしても活躍し、近年もBrandy & Monicaの『The Boy is Mine』のストリングス・アレンジからJay-Z、The Roots周辺など現行シーンでも大活躍している。彼の参加もSilk Sonicのサウンドの説得力を増し、さらにスウィートソウルとしての完成度をより高めている。Thom Bell関連では一番好きで数々のアーティストにもカヴァーされているThe Delfonics『La-La (Means I Love You)』やThe Stylisticsの名曲を。この歌い上げ感はまさに『Leave The Door〜』のルーツ。あとちょっと曲数が多いのだがThom Bell関連曲を集めたプレイリストも参考になるので貼っておこう。 


6. 現行アーティストによるスウィートソウル

そして最後に2000年以降の現行アーティストの作品でこういった懐かしさを感じる、僕が好きだった曲をいくつか。Raphael Saadiqの2008年の『Never Give You Up』はStevie Wonderが参加し当時DJのラストでよく締めに使っていた思い出深い1曲。他にTuxedoのMayer Hawthorneのデビュー作や、つい5年ほど前にリリースされたニュージャージのThe Jack Movesも素晴らしいブルーアイド・ソウルでオススメ。さらに音楽ジャーナリストの林剛さんが『Leave The Door〜』にインスパイアされて製作したプレイリストがとても素敵だったのでこれもぜひ合わせてチェックして欲しい。


以上、Silk Sonicと『Leave The Door Open』を紐解くキーワード、そしてこの曲と合わせて聴きたい楽曲を紹介してきたが、最後に嬉しいニュース。明日3月15日に行われるグラミー賞の授賞式でなんとSilk Sonicがパフォーマンスをする事が決定!しかもこれBrunoとPaakがTwitter上で #LetSilkSonicThrive なるハッシュタグで直談判して出演が決まったという(本当かどうかは別として)面白いお土産話付き。anderosn .Paakは今年のグラミーで2部問にノミネートされ話題になっているが、BrunoのツイートではなんとBTSへの言及もあるのでもしかしたらコラボも?なんて噂も。一体どんなパフォーマンスデビューになるか今から楽しみだ。