【TJOコラム】66th Grammys/第66回グラミー賞まとめ
2月はエンタメ業界が賑やかなアメリカ。今週はスーパーボウル 、先週はグラミー賞。テイラー・スウィフトを軸に考えると今年のこの2大イベントは連なって話題を集めましたね。今年のグラミー賞は2月4日にロサンゼルスのCrypto.comアリーナにて開催されました。
1. そもそもグラミー賞とは?
1959年から始まった世界最大の音楽賞で、非営利団体「レコーディング・アカデミー」によって主催され、その会員の投票によって受賞者が決定します。しかし近年は世間の評価とズレた受賞結果などが批判を受け、会員の人種や年齢層の幅を増やし、さらには主要4部門の最終選考に関与していた秘密委員会を廃止するなど大きなテコ入れが行われてきました。
2. 今回のノミネート状況と新設された賞
今回のノミネート対象作品は2022年10月1日から2022年9月15日に発表された作品。最多ノミネートはSZAで主要3部門含む全9部門、それに続くのがVictoria Monétの7部門、Jon Batiste、Billie Eilish、Olivia Rodrigo、Miley Cyrusの6部門での候補入り。
そして今年から新設されたのが
最優秀アフリカン・ミュージック・パフォーマンス
最優秀オルタナティブ・ジャズ・アルバム
最優秀ポップ・ダンス・レコーディング
さらに
最優秀プロデューサー(ノン・クラシック)
最優秀ソングライター(ノン・クラシック)
の2部門が主要部門に移行され、全94部門となりました。
3. 主要4部門(BIG 4)とは?
ちなみによくピックアップされる主要4部門とは以下の4つ、今年の結果と合わせてどうぞ。
今年は女性の年!とも言うべき全て女性アーティストが受賞した印象的な年になりました。
A. Record Of The Year (最優秀レコード賞):Miley Cyrus – “Flowers”
アーティストだけでなくプロデューサー、エンジニアなど関わった全員が授賞
B. Album Of The Year (最優秀アルバム賞):Taylor Swift – “Midnights”
C. Song Of The Year (最優秀楽曲賞):Billie Eilesh – “What Was I Made For”
ソングライターが授賞の対象作曲家、作詞家にフォーカスした賞
D. Best New Artist (最優秀新人賞):Victria Monet
4. に気になるダンス部門の結果は?
DJやっているとやはり気になるダンス/エレクトロニック部門。
こちらはSkrillexとFred again..の盟友コンビでワンツーフィニッシュでした!
最優秀ダンス/エレクトロニック・レコーディング:
Skrillex, Fred again.., Flowdan – Rumble
最優秀ダンス/エレクトロニック・アルバム:
Fred again.. – Actual Life 3
10年ぶりの(しかも2枚同時)アルバム発表に留まらず、盟友Four TetとFred againn..との3人によるコーチェラでの歴史的なB2Bセットなど、未だに世界のダンスシーンのトレンドセッターとして走り続けるSkrillexと彼に大きな影響を与えているとされるUKのプロデューサー=Fred again..。常にシーンの先に行って、新しいムーヴメントを生み出しているこの2人の受賞に関しては当然というか納得というかの結果でしたね。ちなみにこの受賞によって”Rumble”でラップを披露していたFlowdanはグラミー賞を受賞した初のグライムMCとなりました。近年UKベースミュージックに影響を受け、サウンド的にも回帰したSkrillexからシーンに対しての恩返しになったとも言えます。
またSkrillexが授賞式で行ったスピーチもとても印象的でした。
またメジャーやアンダグラウンドの作品が混合しやすかった同部門において、ポップ寄りなダンス作品に焦点を当て、新設された最優秀ポップ・ダンス・レコーディングはDavid Guettaの”Baby Don’t Hurt Me”やCalvin Harrisの”Miracle”を押し除け、ヨーロッパを中心にUKで大ヒットを記録した、Kylie Minogue – Padam Padamが受賞。受賞の結果を受けて楽屋ではしゃぐカイリーの姿がチャーミングでしたね。
その他ノミネート作品などの詳細はぜひEDM MAXXのDJ SASAによる記事でチェックしてください。
5. Taylor Swift、4回受賞の快挙 / Miley Cyrus、意外な初受賞
今年の目玉となったのはやはりテイラー。アルバム『Midnights』の最優秀アルバム賞の受賞で史上初となるアーティストとしての同賞の最多受賞記録を樹立しました。また彼女はスピーチの中で最新アルバム『The Tortured Poets Department』が4月19日に発売される事をサプライズ発表、さらに受賞翌日に控えた東京でのライブの準備をしているのも受賞と同じくらい幸せと、我々日本のファンにも嬉しい言葉を残してくれました。ちなみにもし受賞していなかったら東京でのライブ中に最新アルバムの発表をする予定だったそうです。トラックリストもすでに出ていて1曲目にPost Maloneが参加しているなど、すでに期待が高まります。
余談ですがこの時の賞のプレゼンターは、昨年12月に難病のスティッフパーソン症候群を患っている事を公表して以来初のメディア登場となったCeline Dion。久しぶりに元気な姿を見せてくレました。
またMiley Cyrusは去年の大ヒット曲”Flowers”で、自身初となる以下2部門を受賞
最優秀レコード
最優秀ポップ・パフォーマンス(ソロ)
初受賞は意外で、本人も相当嬉しかったようで”Flowers”ライブ中に初受賞を喜んだり、とにかく楽しそうで魅力的なパワフルなパフォーマンスを見せてくれました。
Billie Eilishは “What Was I Made For”で以下を受賞。
最優秀楽曲賞
最優秀映像作品楽曲賞
この曲を提供した映画「バービー」にオマージュを捧げたファッションでライブを披露。
他にも同じく「バービー」の曲として大ヒットした”Dance The Night”でノミネートされたDua Lipaは受賞こそ逃したもののライブで間もなくリリースされるアルバムから新曲を披露し話題を集めました。
ライブ・パフォーマンスで言えば、Tracy Chapmanの1988年の名曲”Fast Car”をカヴァーし大ヒットさせたカントリーシンガー=Luke Combsがトレイシー本人を招いて共演したのは、大好きな曲だったのもあって熱かったですね。
6. ロック部門で大活躍のboygenius
Phoebe Bridgers、Julien Baker、Lucy Dacus、それぞれがソロアーティストとして活躍する3人によって結成されたUSインディーシーンで大人気ユニット。昨年リリースのデビューアルバム「the record」と収録曲の”Not Strong Enough”で6部門ノミネートのうち以下3部門を獲得。
最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム賞
最優秀ロック・ソング賞
最優秀ロック・パフォーマンス賞
最初、男性バンドかと思っていたバンド名は「男性アーティストは生まれながらに天才だから、女性はそれを聞くべき」と言われた実体験から、皮肉めいて付けられた名前。2018年の結成以来注目を集め、Billie Eilishと共演、SZAのアルバムに参加し、さらにTaylor Swiftのツアーにも帯同するなどジャンルを超えた活躍をしています。メンバーの1人=Phoebe Bridgersはタイミング良く今年2月に来日公演も控えています。
さらにベテラン・バンド=Paramoreはアルバム「This Is Why」で
最優秀ロック・アルバム賞
最優秀オルタナ・ミュージック・パフォーマンス賞
を受賞しました。
7. インパクトを残したヒップホップ部門
今年は社会活動課としても活躍するベテラン・ラッパー=Killer Mikeはアルバム「MICHAEL」と収録曲”Scientists & Engineers with André 3000 feat. Future & Eryn Allen Kane”で3部門を制覇しました。
最優秀ラップ・アルバム賞
最優秀ラップ楽曲賞
最優秀ラップ・パフォーマンス賞
ただ、ステージ上で受賞を大いに喜ぶ姿の後に、警察官に連行されて会場から連れ出される動画が出回り「何ごとか?!」と話題になりました。結果としては会場内への入場の際に警備員に怪我を負わせたという事でその日の午後には釈放をされていたようです。
そして今年のスピーチの中でも最もインパクトを与えたのがJay-Zでした。昨年新設された、ブラック・ミュージックに貢献し、世界中にポジティブな功績を残したアーティストに贈られる名プロデューサー=Dr. Dreの名前を冠した「ドクター・ドレー・グローバル・インパクト賞」を受賞した彼はスピーチの中で、名前は出さなかったもの妻であるBeyonceが最多記録となる32回の受賞をしているにも関わらず、最優秀アルバム賞を受賞していないことを引き合いに出し、これまで黒人アーティストがノミネートや受賞のチャンスを得られずボイコット等をしたことも語り、グラミー賞に正しいことをやって欲しいというメッセージを送りました。しかし批判とも思える内容の後に「正当な評価を得るまであきらめず姿を表し続けよう、受賞に相応しいと称賛されるまで、リーダーと認められるまで。天才だ、史上最高だと呼ばれるその日まで」と妻だけでなく全アーティストへのメッセージとして素晴らしい演説をしてくれました。
8. 念願の受賞となったR&B部門
シンガーとしてだけでなくソングライターとしても長きに渡ってAriana Grandeの右腕として活躍してきたVictoria Monét。Arianaが”7 Rings”の中で指輪を贈った親友7人のうちの1人としてもしられる彼女がデビュー・アルバム『JAGUAR II』で新人賞を含む3部門を受賞しました。
最優秀新人賞
最優秀R&Bアルバム
最優秀エンジニア・アルバム
スピーチで「15年かけてやっと芽が出た気分」と語るように新人と呼ぶには長いキャリアを経ての念願の受賞となり、今年の顔になりました。
またSZAもアルバム『SOS』と楽曲”Snooze”、ロック部門でも活躍したboygeniusのPhoebe Bridgers参加の”Ghost in the Machine”で受賞。
最優秀プログレッシブR&Bアルバム賞
最優秀R&Bソング賞
最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス賞
9. 新たな波、アフリカン部門
今年から新設された最優秀アフリカン・ミュージック・パフォーマンス賞は、世界的ヒットとなったTyla – “Water”が受賞。
さらにライブでもナイジェリア出身のBurna BoyがBrandyと21 Savageを迎えてライブも行い、アフロビーツがグラミーで大々的にパフォーマンスされるのは初めてという事で、いかにアフリカン・ミュージックが世界的に重要になっているかを物語っていました。
10. 追悼コーナー
今年はStevie WonderがTony Bennettの映像と”For Once in My Life”をデュエットし、Annie LennoxとWendy & LisaでSinéad O’Connorに捧げる”Nothing Compares 2 U”を披露、FantasiaによるTina Turnerトリビュートなどがありました。そして日本からは昨年亡くなった坂本龍一の名も追悼され、改めて音楽界の偉人達の功績を称える印象的なパートとなりました。
最後に辰巳JUNKさんの今年のグラミー賞雑感noteが面白かったので紹介します。
全編読んでいて「へ〜!」の連続だったのですが、特に『「平凡さ」の正体』の項目
①スタジオミュージシャン、ソングライター会員に評価されやすい楽曲
②穏当な内容
の部分はグラミー賞の特徴をよく表しているなと勉強になったのでぜひチェックしてみてください。