【コラム】J-wave 81.3FM “SONAR MUSIC” ≪2024 UKダンスシーン最前線!≫

【コラム】J-wave 81.3FM “SONAR MUSIC” ≪2024 UKダンスシーン最前線!≫

6/17(月) 22:00〜 J-Wave “SONAR MUSIC”に出演。

この日は「2024 UKダンスシーン最前線」と題して、ダンスポップ・アルバムをリリースしたばかりのCharli XCX、Dua Lipaを筆頭に、
UKダンスシーンの歴史からオススメのアーティスト紹介などUKダンスポップのムードを解説しました。

>>> タイムフリー(再放送)は6/24(月)まで聴けます。

【前半】UKダンスシーンの歴史と特徴 & 大人気!Dua Lipaの新作について

・UKには独自のダンスポップ・シーンがあるがなぜ今ダンスポップシーンが面白いのか?

元を辿ると80年代、90年代のレイヴカルチャー + サウンドシステム・カルチャー=テクノ、ハウスに加え、ジャマイカ移民などによるレゲエシーンなども熱かった。ダンスミュージック にサウンドシステムカルチャーが混ざり合う事で、そこから派生しジャングル/ドラムンベースやUKガラージ/2ステップが生まれる。特にUKガラージはダブステップ、グライム、ベースライン、UKファンキーなどのサブジャンルも生み出し、中でもダブステップはアメリカに渡り、EDMと合体。Skrillexに代表されるハードでノイジーなサウンドのブロステップを生み、そこからトラップにも派生。そう考えるとUKクラブサウンドは世界的にも影響力が大きい。

①元々UKには自分の国から生まれたカルチャー大事にしようという文化がある。例えば、UK&アイルランドで毎年最も優れたアルバムに対して贈られる音楽賞=「マーキュリー賞」があり、1997年には、その時代に一斉を風靡していたドラムンベースのRoni Sizeのデビューアルバム『New Forms』がSpice GirlsやPrimal Screamを抜き、また2003年にはグライム・シーンのパイオニアの1人であるDizzee Rascalのアルバム『Boy in da Corner』がColdplayやRadioheadを抜いて受賞している。

②そして一番の要因は近年のUKダンスシーンのリバイバルだろう。これコロナを経て、ロックダウンを経て激しく求められる開放感からダンスミュージックが再燃。例えばBeyonceも今年リリースしたカントリーアルバム『COWBOY CARTER』の方が実は先に出来上がっていたけど、「今はダンスが求められている」と判断し、ディスコアルバム『Renaissance』を出した。そういえばDrakeも当時、Carnageのハウス変名=Gordoやアフロハウスのレジェンド=Black Coffee、さらにIBIZAやヨーロッパのディープハウス・シーンを牽引する&ME、Rampaを迎え、ハウスを全面にフィーチャーした『Honestly, Nevermind』を出していた。またロックダウン後のUKチャートでLF SYSTEM「Afraid To Feel」やEliza Rose「B.O.T.A」がポップスも含めた総合のチャートで1位を獲得。2022年は1年間のUKシングル・チャートのトップ10のうち、なんとダンスミュージックが4分の1以上を占めていたという。


③そして世代が一周。80,90年代にダンスミュージック に慣れ親しんだ世代が親となり、その子供世代にとってドラムンベースやUKガラージガさらに身近な存在に。例えばPinkpantheressやNia Archivesに代表されるようにジャングルがリバイバル。ドラムンベース自体も今やEDMシーンでも必ずDavid Guettaなどのビッグネームがプレイするほど大きな人気を集め、同じくしてUKガラージ/2ステップもここ数年でリバイバルしている。DisclosureはUKガラージに影響を受けた第2世代の象徴としてUKガラージの元祖=Zed Biasの楽曲「Fairplay feat. Jenna G」をサンプリング して名曲「Disclosure feat. Sam Smith」を生み出し、2020年には「Birthday」のリミックスをMJ Cole、「Waterfall」のリミックスをTodd Edwardsにオファーするなど先人に対するリスペクトを体現している。

・Dua Lipa – Radical Optimism

5月にリリースされた、2020年の大ヒット2ndアルバム『Future Nostalgia』から4年ぶりの3rdアルバム。前作はロックダウン時期と重なりツアーやプロモーションが出来ない制限があったもののロックダウン中で家にこもっている幅広い世代に、80’sダンスミュージック的な懐かしさが大ウケ。そして2023年夏、Mark Ronsonプロデュースによる映画「バービー」主題歌「Dance The Night」の大ヒットを経て、2020年代のダンス・クイーンというイメージを根付かせての待望のアルバムだ。

Dua自身は本作を「サイケデリック・ポップを注入した90’sのUKレイヴカルチャーへのオマージュ」と公言。

製作陣も今回は以下の4人をメインに固めて作られた。

・Danny L Harle → A. G. Cook率いる「PC Music」出身のUKプロデューサー。Carli XCXやRina Sawayamaなどのメジャーポップ・プロデュースも多い。
・Kevin Parker → Tame Impalaで大活躍
・Caroline Ailin → Duaのヒット作“New Rules”や“Don’t Start Now”で実績あり
・Tobias Jesso Jr. → Adeleなども手掛ける新鋭作家

この4人以外に「Dance The Night」を手掛けた元Miike SnowのAndrew Wyattが参加しているぐらいで少数精鋭で作られたアルバムはDua Lipaらしいダンス作品にはなっているが、前作を踏襲したDanny L HarleとKevin Parkerが大きく貢献した「サイケ・ポップ・ディスコ感」が強い作品ともいえる。

オススメ曲:

「Houdini」:アルバムの「ダンス+サイケ感」を最も体現していると思う。

「Illusion」:疾走感溢れる四つ打ちが気持ち良いハウス

「Happy For You」:90’s UKポップ的な壮大な歌+後半のアシッドベースがカッコいい!

他にもダンス貢献度の指標となるリミックス作品でもこれまでのシングルにクラブ仕様となる長尺版の「Extended」を収録するのは基本で、「Houdini」ではIBIZAを中心にアフロハウスで人気を集めるAdam Port「Training Season」ではIBIZAの名門レーベル=CircoLocoからもリリースするフランスの新鋭=Chloé Caillet「Illusion」では音楽ユニットだけでなく映像監督というキャリアも持ち、世界 3 大広告賞の一つと言われるカンヌでMVで史上初となるグランプリも獲った気鋭のThe Blazeなど、フレッシュな人選でインパクトを与えている。

・Charli XCX – BRAT

2022年の『Crash』以来2年ぶりのアルバム。当時は歌詞の中にレーベルへのディスを入れるほど険悪ムードでインタビューでも「これが長く続いてきた今のレーベルとの最後の作品。もう契約しない。」と公言するほど。でも蓋を開ければオフィシャル・アルバム・チャートで初の1位記録。評価も高く、2022年最大のアルバムのひとつにもランクインし、キャリア最高の成功に。で、移籍先はどうなったかと言うと、アルバム制作にも参加していたThe 1975のドラマー=George Danielが当時、恋人だった(今は婚約者)のでThe 1975のレーベルDirty Hitに行くかと噂されていたが、結局はAsylum RecordsからAtlantic Recordsへ、どちらもWarner Music傘下なので特に大きな変化もないまま。

そして新作『BRAT』は今年のベストにもすでに挙げられるほどの高評価!今作もポップであり、さらに実験的でダンサブルな彼女らしいアルバムに仕上がっている。メインのプロデューサーはAG CookとGeorge Daniel、さらにダンス系ではさらにGesaffelstein、Hudson Mohawkeも参加している。

AGとの安定した相性の良さを見せるPCミュージック的なサウンドはもちろん、「私はダンスミュージックを作るために生まれてきた。ずっと作りたかったアルバム。」と語るだけあって先鋭的なダンスと親しみやすいポップのバランスが良い。

今年2月、NYで開催したボイラー・ルームとのコラボイベントでは一足早くアルバム収録曲の「Club Classics」を披露し話題を集めたが、もう一つ印象的だったのは、エレクトロ・クラシックのBenny Benassi「Satisfaction」などもプレイしていた点だ。それも今、世界的に2000年代のエレクトロ回帰が来ていて先行シングルとなる「Von Dutch」はモロにそのオマージュだったから。サンプルとは言ってないが2006年のBodyrox「Yeah Yeah (D Ramirez Remix)」に影響を、というかそのまんま。

「Von Dutch」

Bodyrox「Yeah Yeah (D Ramirez Remix)

他にもポップ的な魅力を放つ「360」、さっきの「Club Classics」もAG Cook純度100%なブッ飛び系。未来なポップをやるだけでなく、世界的に来ているエレクトロ・リバイバルにも目配せしている点が世代の自分としても熱いポイントだった。

個人的に「エレクトロ回帰を本気でやってるな」と思ったのは「Von Dutch」のリミックスにSkream & Bengaを起用していた点だ。彼らはUKダブステップ初期のスター2人。Skreamは今Technoシーンで活躍しているし、Bengaもしばらく活動していなかったのにわざわざ引っ張り出してきて、彼らが組んでいたユニット=Magnetic Manを彷彿とさせるUK Dubstep回帰までしている。これはEDM系ブロステップの帝王だったSkrillexがここ数年でFour TetやFred again..に傾倒しUK回帰して「Rumble」や「Push」をはじめとするディープ寄りな初期UKダブステップ・リバイバルしている事とも見事にリンクしていると言える。

【後半】ダンスポップシーンの注目株

ではUKのダンスポップ・アクトもっと知りたいよって人。今年5月に開催された英国国営放送ラジオBBC主催の「2024 BBC Radio 1’s Big Weekend」を見ると、ここら辺の注目アーティストが多くブッキングされていて非常に分かりやすい。しかも今年フジロックやサマソニなどで来日する人も多い事に気付く。

・Pinkpantheress

説明不要の近年のポップとダンスを繋ぐ象徴的アーティスト。キャリア初期の作品がドラムンベース・クラシックのAdam F「Circles」サンプリングだったり、UKガラージのトラックで歌ったりとさっき挙げた第2世代的+ビートが全体的にLo-Fiで、細い声で歌うのもこういったドラムンを骨太なダンスジャンルとしてでなくZ世代らしい一種のタイプビートの一つと捉えて使ってる感じが特にフレッシュだった。今年フジロック来ます。

・Kenya Grace

南アフリカ出身UK育ち。「Strangers」が世界的に10億回再生を記録する大ヒット。BBC Radio 1が期待の若手アーティストたちを選出する「SOUND OF 2024」、BRIT Awards 2024で「Song of the Year」にノミネート、さらに今年の「Coachella 2024」にも出演と勢い凄い。彼女もベッドルームでパッドを叩きながら歌う映像も相まって、Pinkpantheressともリンクする次世代ダンスアクトに。彼女も今年フジロック来ます。

・Piri

Piri & Tommy名義でポップなUKガラージでヒットを連発。当時2人は恋人同士だったけど今はもう破局してそれぞれで活躍していて、特にPiriはUKガラージ・シーンで大人気のsaluteの新曲「luv stuck」にも参加。高めでキャッチーな歌声はPinkpantheress路線でもあるがよりポップさを増していて、こういった次世代のダンスミュージックを集めたSpotifyプレイリスト「Planet Rave」で人気だ。実はILLITのSNSで大ヒットしている「Magnetic」のイントロの英語の語りは彼女によるもの。

・RAYE

UKダンスポップ・アクトの規定路線ともいえるDavid Guetta「Stay」やJoel Corry「Bed」Disclosure「Waterfall」など大物DJ/プロデューサー作品のフィーチャーリングで名を上げ、個人名義では2023年に「Escapism」が大ヒット。同年、ラップ・グループ=D-Block Europeとの2020年コラボ「Ferrari Horses」をCassoという新人プロデューサーがレイヴ・リミックスした「Prada」がヨーロッパを中心に大ヒット。

「Prada」

ダンス系のイメージが強いがジャズ、ソウル系歌わせてもメッチャ上手い。新曲「Genesis」のPt.iiiがジャズ・アレンジや数々のライブ動画で彼女の歌唱力が確認できる。

RAYE – Oscar Winning Tears. (Live at the Royal Albert Hall)

・Becky Hill

キャリアは長いが、去年BRIT Awards 2024のベスト・プロデューサー賞を受賞したドラムンベース・シーンの人気プロデューサーChase & Statesとの「Disconnect」が大ヒット。他にもUKハウス・シーンで人気のあるSonny FoderaやSwedish House MafiaやFred again..の右腕として活躍するイタリアの兄弟デュオ=PARISIプロデュース作品など、様々なジャンルでヒットを放ち、最新アルバムもリリース。今再びキャリアのピークを迎えている。

Becky Hill, Chase & Status – Disconnect (Live At The BRITs 2024)

・Romy (The XX)

人気インディーバンドのメンバーとして知られるがソロではダンスミュージック作品が多い。Fred again..がプロデュースした「Strong」でY2Kトランス回帰したり、最新作ではDonna Lewisのポップヒット「I Love You Always Forever」をFred again..、Joy Anonymousのプロデュースでサンプリングするなど意外な路線にも挑戦。

・Charlotte Plank

あと、ここ数年ドラムンベース系で活躍するシンガーが台頭しているのも特徴だ。Rudimentalがプロデュースした「Dancing is Healing」、また彼らのシングル「Green & Gold」にも参加しどれもヒットを飛ばしてポップ・チャートにも進出している。

Rudimental – Dancing Is Healing (feat. Charlotte Plank) (BBC Music Introducing at The Hundred, 2023)


・Issey Cross

彼女もドラムンベースをメインに活躍する新鋭シンガー。昨年The Verveの名曲「Bitter Sweet Symphony」をネタにした「Bittersweet Goodbye」がヒットし、Tiestoが去年のベルギーの世界的EDMフェス=TomorrowlandのメインステージでDJした際に、ハイライトとなる花火タイムでIssey Cross を招いてこの曲のTiestoによるハードコア・バージョンを生歌唱した事もインパクトに残っている。

またPiriやCharlotte Plank、Issey Crossは「Loud LDN」なる女性とノンバイナリーなアーティストが集まるコレクティブのメンバーでもある。

新しい時代を迎えてドンドン面白くなっていくUKダンスポップ・シーンから目が離せない。
またこういった機会があればラジオやコラムなどでオススメのアーティストやアルバムを紹介していきたいと思います。

Text by TJO

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