書き起こし – TJO Podcast Vol.3: Spider Verse x Metro Boomin
今年の6月に公開され、デジタル配信がスタートしたばかりのスパイダーマンの長編アニメ映画「スパイダー・バース」の第2弾「アクロス・ザ・スパイダー・バース」と、話題になってるMetro Boomin (メトロ・ブーミン)が手がけるサウンドトラックについて紹介したいと思います。
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1. 映画「スパイダー・バース」について
これはスパイダーマンのアニメ映画の第2弾です。前作は2018年に公開の「スパイダーマン:イントゥ・ザ・スパイダー・バース」。これね、画期的なアニメーション表現と独創的なストーリーで、当時映画のアカデミー賞のアニメーション部門ってずっとディズニーかピクサーが独占してたんだけども、その年の長編アニメーション賞を見事に受賞しました。ちなみにその前にディズニー関連以外でアニメ賞を受賞したのは2011年の映画で、ジョニー・デップが声優を担当した「ランゴ」以来の快挙です。
「スパイダー・バース」、この作品は口で説明するだけじゃ足りなくて。まずは予告編を見てもらいたいんだけど、CGとアメリカン・コミックを見事に融合した表現で、今まで見たことのないとにかくめちゃめちゃセンスに溢れた映像で完全に「スパイダーバース以降〜」って流れができるぐらいの映像革命のインパクトがありました。
あとはストーリー。この作品の画期的だったのはマルチバースっていう要素を大々的に取り入れた事です。マルチバースって簡単に言うと自分が住んでる現実世界とは別にいくつも並行する世界&宇宙が存在するという理論物理学の説なんだけど。ちょっと前だと「パラレルワールド」とかっていう言葉もあったと思うんだけど、そういう感じで、いくつも違う世界があってそこには男女性別とか、あと年齢も違う人生を生きている自分が無限にいるみたいな。そんな他の世界のスパイダーマンが時空を超えて集まって大活躍するっていう、下手するとややこしい話を見事にわかりやすくエモーショナルに描いた映画なんだよね。
この「マルチバース」はアメコミでは昔からある概念なんだけど、それを一般的にわかりやすく提示したのが最近だとこの映画(「スパイダー・バース」の第1弾)です。マーベルの実写映画=MCUは、もう最近ではこのマルチバースの世界観を主軸に描いてたりしてます。あとやっぱりトム・ホランド主演の実写スパイダーマンシリーズの第3弾「スパイダーマン:ノーウェイ・ホーム」って大ヒットした映画があるんだけども、これはそのマルチバースを実写で最高な形で描いた大傑作だったんだよね。でも「ノーウェイ・ホーム」がマルチバースの世界観をやりやすかったのも絶対に先にこのスパイダーバースの成功があったおかげだと個人的には思ってます。
2. スパイダーバースの主役について
今回は僕らが一般的に知っている白人のスパイダーマンじゃなくて、アフリカ系アメリカ人=黒人のスパイダーマンが2代目で、名前はマイルズ・モラレスといいます。マイルズは2011年にコミックに初登場。初代スパイダーマンはニューヨークのクイーンズ出身のピーター・パーカーっていう青年なんだけど、この2代目スパイダーマンは同じニューヨークのブルックリンの高校生で、彼は黒人の父親とプエルトリカンの母親を持つミックス。当初はね人種を変えたって事で結構ネガティブな意見も読者とかからあったんだけど、結局マイルズの持ち前のチャーミングで人懐っこいキャラクターですぐに人気キャラになって、それこそTVアニメとかゲームにも登場して、遂には映画の主役を張って見事アカデミー賞まで受賞しました。
3. ヒップホップ愛に溢れたサウンドトラック
そしてこの映画のもう一つの大きな成功の秘密がズバリ音楽です。第1弾の時点でサントラにはヒップホップがメインに採用されていて、中でもPost maloneとSwae Leeの「Sunflower」がその年の大ヒットソングになりました。全米シングルチャートで1位獲得はもちろん、さらに2010年代で4番目に売れたR&Bソングになリました。しかも舞台はニューヨーク・ブルックリン。さらに主役は黒人のティーンエイジャーということで、よりヒップホップに踏み込んだ選曲や描写が映画の中にあってそれがまた熱かったんだよね。
まず第1弾の映画の中でマイルスがヘッドホンで「Sunflower」を聞きながら口ずさんでいるんだけど、いわゆるお客さんの僕たちが聞いている劇中のサントラとしてじゃなくて、その主役自身も好きな曲として映画の中に入り込んでるっていう設定。そしてさらに激アツなのがマイルスが憧れるちょいワル親父のアーロンという叔父さんがいるんだけど、彼の部屋に行くとターンテーブルでブルックリンの象徴的なラッパーのThe Notorious B.I.G.の名曲「Hypnotize」を大音量で流してて、さらにヒップホップの4大要素の一つであるグラフィティをマイルスとアーロンとで地下鉄に描きに行くシーンでは、Black Sheepの「The Choice Is Yours」やターンテーブリストCut Chemistの楽曲、さらにヒップホップのこれまた4大要素の一つのブレイクダンスのアンセムとされているIncredible Bongo Bandの「Apache」鳴ってたりと、とにかくヒップホップ好きな人はもう思わずニヤリっていう選曲をしてるんです。
4. 劇中に登場する実在のアーティスト
ちなみにサントラの第1弾にはPost MaloneやSwae Leeを筆頭に、Denzel Curry、Jaden Smith、Nicki Minajなど大人気のラッパーたちが参加しているんだけど、面白いのは映画の中にもそういったHIPHOPアーティストアーティストがちょい役で出てくるの。例えばマイルスの部屋にはいろんなポスターが貼ってあって、その中にChance The Rapperの傑作ミックステープ「Cloloring Book」のポスターが貼られてるんだけど、実際のChance The Rapperのジャケ写は大きく3って書いてあるキャップをかぶってるんだけど、この世界ではキャップに数字の4が書かれていたり、あと街中でThe Weekndの広告があって、そのデザインは「Star Boy」っていう彼のアルバムなんだけど、タイトルがその前のアルバム「Kiss Land」ってなっていたりして、要はこの世界にもChance The RapperやThe Weekndはいるんだけど、ここの彼らもちょっと違うんだよっていうのをうまく表現してるんだよね。
5. 待望の映画第2弾「アクロス・ザ・スパイダー・バース」
そして6月に公開されたのがその続編となる「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダー・バース」です。元々、去年2022年の4月に公開予定だったんだけど、パンデミックの影響で2023年6月に公開変更されました。今回は前作の続編でもあって、この第2弾と来年に公開予定の第3弾が2部構成になって繋がってんの。僕ら世代で分かりやすく言うと「バック・トゥ・ザ・フューチャー」。2作目が完結せずに3作目に繋がる的な、そんな立ち位置です。早速観てきましたよ!感想から言うと、もう今回も最高!前作以上にパワーアップしてる!前作だって相当な手間かけて今まで見たことない映像表現してて今作はどうするのと思ったら、もうそれを開始10分でもう超えてくるっていう、やばいよ!
未見の人のためにも詳しくは言わないけど、マルチバースとそれぞれのキャラクターや世界観を見事に絡めて、前作以上の映像表現に挑んでいる。もう出だしから凄い!ってなったし、そこからももう相変わらずのセンスで前作超えて行きますよっていう気合を感じました。とにかく前作以上にチャレンジ精神に溢れてて。見てない人のために詳しくは言えないけど、とあるマルチバースの世界なんかは僕らにもなじみのある素材を使っていて。なんとそのシーンは、YouTubeでアクロス・ザ・スパイダー・バースの予告編を勝手に再現した14歳の男の子の手作り動画がバズって、それを見た監督たちが実際にその子に声をかけて作ってもらったんだって!あとは前作にも登場した女性のスパイダーマン=グエン・ステイシーの世界は水彩画の絵の具のようなタッチで描かれていて、感情の変化でその周りの彩りが変わったりとアイデアに溢れていて本当に見応えが凄かった。ちなみにグエンの世界は色合いがレインボーカラーで表現されてて、彼女の部屋にもLGBTQを支援、応援するようなポスターが飾られたりとかしていて、彼女自体がLGBTQである描写はないんだけど、自分がスパイダーマンだっていう正体を人には言えないっていう状況を、同じように悩みを抱えるLGBTQの人々に重ね合わせたりしている、なんていう説もあって、1個の表現の中にちゃんとそれぞれ意味があるっていうとこがまた面白い。
とにかく、ハイ・コンテクストな作りになっているから後から解説や考察を見て意味が分かって、また見返したくなっちゃうんだよね。僕も映画を観終わってから考察をネットでチェックしてまた観たいって思ってます。とにかく映像の情報量も多いから、普段は字幕で観るんだけど、次は吹き替え版で見てじっくり映像を隅から隅まで堪能したいなって思った。
6. 超話題!Metro Boominが手がけるサウンドトラック
そんな最新作、音楽の方もジャンルの幅もさらに広がって登場人物の心情に合わせた選曲もしていて本当に最高でした。さあ、そんなサウンドトラックは今をときめくHIPHOPプロデューサー=Metro Boominが手がけています。
厳密に言うと劇伴っていう音楽だけのサントラは前作に引き続きDaniel Pembertonが、スクラッチを入れたり&ビートの効いたHIPHOP要素もしっかり取り入れたスコアを書いてるんだけど、これがまた良くて以前スポーツ関係の音楽仕事をした時に彼の曲を使った事があるんだけど、映画音楽のドラマティックさやビート感がスゴい会場にハマっていました。
さあ話を戻して、Metro Boominが手がけたのは劇中で登場するHIPHOPやR&Bの曲です。そのほとんどの曲をプロデュース&それらを音楽監督という形でまとめていて、その映画のために作られたインスパイアアルバムのキュレーター=監修という役割で携わっています。これはこの映画の予告編が2022年の12月に公開された時にMetro Boominが自身のインスタに彼がいつも着用してるバンダナを付けたMetro Boomin版のスパイダーマンの画像をアップした事で明らかになりました。
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そして前作以上に参加ミュージシャンも豪華!前作からSwae Leeはもちろん、Metro Boominと馴染み深いFutureや21 Savage、Don Toliver、さらに舞台がニューヨークという事で伝説のラッパーNasやA$AP Rocky、Lil Uzi Vertなど東海岸のアーティストも多く参加してるイメージです。しかもMetro Boominだけじゃなくてそれぞれのミュージシャンもスパイダーマン化されたビジュアルが披露されていて、これ映画公開まで結構ワクワクさせられました。
7. Metro Boominとは?
Metro Boominは2010年を代表するHIPHOPプロデューサー。アメリカはミズーリ州セントルイス出身で、Migos、Drakeのなど大物アーティストのヒット曲を世に送り出します。最近だとThe Weekndと21 Savageをコラボさせた自身名義の楽曲「Creepin’」が大ヒット。彼は1993年9月16日生まれの29歳。29歳という若さの割にキャリアが長いイメージがあるのは、彼が高校生の時から活躍してるから。HIPHOPの2010年代の一大ムーブメントとなった「TRAP」を牽引してるそんな存在です。
あとね面白いのはプロデューサータグ。ヒップホップの楽曲の中でそのプロデューサーが手掛けてますよっていう事を証明する声とかサウンドを入れるカルチャーがあるんだけど、Metro Boominの場合はFutureのそれが有名。「If Young Metro don’t trust you, I’m gon’ shoot you=もしヤング・メトロがお前を信用しなかったら、俺が撃ってやる」や最近だと単純に「Metro〜!」と叫んでたりとか。これ今回のサントラにも結構印象的に入ってるので注意して聞いてみてください。
他に面白いのは、彼のソロ・アルバムのタイトル。2018年のデビューアルバムは『NOT ALL HEROES WEAR CAPES(ヒーローはみなマントをまとっているとは限らない)』。さらに2022年の2作目も『HEROES & VILLAINS(ヒーローと悪役)』と、どれもねタイトルがヒーローにちなんでるの。
実際にヒーローものとか映画が大好きで、実はソロアルバムも全3部作って言われていて、そういうとこも含めて映画好きっぽいよね。ちなみに日本のアニメも好きで、「ワンパンマン」とか「僕のヒーローアカデミア」も大好きなんだって。
彼は元々ラッパーになりたかったんだけど「ビートを買うお金が無いから、自分で作ろう」というのと、ラッパーだとライバルが多いから、これはプロデューサーやった方が有名になりやすいんじゃないかって事を若い時からもう考えて、お母さんにプレゼンしてパソコンとFruity Loopsって音楽ソフトを買ってもらって高校時代には一日5曲分のビートを作っていたとか!そこで作ったビートをSNSでプレゼンして、高校の頃にはスタジオに入っていろんなアーティストのプロデュースに携わっていたから若いのにキャリアが長いイメージがあるのはこのためかと。
お母さんがとにかく献身的に彼の活動を応援していて、高校時代は週末になると家のあるセントルイスからスタジオのあるアトランタまでお母さんが送迎してくれたんだって。それがなんと片道9時間!それを毎週末やっていたという。これやっぱり本人の熱意も凄いけど、やっぱお母さんが息子を信じてサポートするその熱意も本当にすごいなと。そして高校卒業後はマーティン・ルーサー・キング牧師やスパイク・リーを輩出したアトランタの名門の黒人大学のモアハウス・カレッジに入学しました。でも結局すぐにプロデュース業が忙しくなって学業との両立が大変ということで、大学を休学して音楽活動に専念。そこからの活躍はもうご存知の通り。Gucci ManeやMigos & Lil Uzi Vertとの「Bad and Boujee」、FutureとThe Weekndの「Low Life」、そしてFutureの「Mask Off」など大ヒットを放ちます。
ちなみにMetro Boominって名前は地元セントルイスのバス路線の名前の「メトロ」とアーティストのOJ・ダ・ジュースマンが彼のトラックがヤバい時に連発した「やばいね!」って意味のブーミンから付けたそう。そして彼は2010年代を代表する&さらに一大ジャンルと化したTrapシーンを牽引するプロデューサーの1人になりました。最近ではプロデューサーとしてコーチェラに出演し盟友のFutureからJohn Legend、さらにはThe Weekndまで豪華すぎるサプライズゲストを登場させちゃうという豪華なライブをやって、めちゃめちゃ話題を集めました。
8. サントラのオススメ楽曲を紹介!
そんなMetro Boominが手掛けたスパイダーバースのサントラは去年の12月から少しずつ映画の予告やティーザー映像と合わせて小出しにされていきました。
まずは「Calling」。前作の名曲「Sunflower」も歌っていたSwae Leeが参加。彼の声って高いから映画の主役のマイルズが歌ってるみたいな、そんな重ね合わせ方もしちゃうからすごい映像とハマるんだよね。
そしてダンスミュージックシーンから今やFrank Ocean、Kendrick Lamar、Jay-Z、Beyonceなどそうそうたる豪華アーティストを手掛け、今やHIPHOP作品のプロデュースに欠かせない重要人物となったJames Blake。彼の前の2019年のアルバムにMetro Boominが参加してる縁もあって今回参加しています。ちなみにこの曲のティーザー映像もいちいち芸が細かくて、劇中のDJシーンとリンクしていて、そこにiTunesみたいな再生ボタンとか今曲のどの辺りを聴いてるかって位置が分かるプレイヤー画面みたいなのが重なっていて、ティーザー観るだけでも価値あるくらいいちいちセンス良いのよ。さらに前作にも参加し今や大人気のCoi Lerayによる「Self Love」。これまたiTunesのようなプレイヤー画面が出て来て、まるで実際に映画のキャラクター達がその曲を聴いてるんじゃないかって錯覚するの。
後はスポンサーメーカーとのコラボCMってハリウッドにめちゃ多くて、今回は自動車メーカーのヒュンダイと映画がコラボレーションした映像で、ヒュンダイの車がオーディオでDon Toliverの「Link Up」をかけながらニューヨークの街を走るんだけど、それをスパイダーマンが追いかけて、「良い曲だね」って車の近くに行くと実はグウェンが運転しててその曲名を教えてくれるという、このCMだけでも映画の世界観を体験できるイケてる内容になってます。
今回はほとんどの曲がMetro Boominのプロデュースなんだけど、絡んでない曲もあります。とは言っても、Offset and JID – Danger (Spider)、Ei8ht and Offset – Silk & Cologne、Don Toliver and Lil Uzi Vert – Homeの3曲だけで16曲中の13曲は彼が絡んでいるんで凄い量だよね。
あと主役のマイルズのお母さんがプエルトリカンなので、今回劇中ではお母さんとの交流も大事な要素となるのでラテン系やアフロ系、アフロビーツやレゲトン調の曲も加わってます。Becky GやAyra Starr、Omah Layなど。でもサントラ本編としてでは無く後にリリースされたデラックス盤のDISC2という形でラテン調の楽曲が+5曲追加されていて、それもめちゃめちゃカッコ良いんでぜひ聞いてみてください。
さらにアルバムに入ってないシングルでDominic Fikeの「Mona Lisa」、これがメチャクチャ良い曲!さらに映画の中でも良いところで印象的に使われてるので、なんで収録しなかったの?!と言いたいぐらい。プロデュースはThe WeekndやAriana Grandeなど現代のポップヒットを多数手掛ける代表格=Stargateと気鋭のプロデューサーKenny Beats。これアルバムに収録されて無かったけどKM君のblock.fmのラジオで知りました。マジ感謝。
9. 最後に
こんな豪華なサウンドトラックを手掛けて大活躍のMetro Boominだけど、去年とっても痛ましい事件があって。自分の活動を一番に応援してサポートしてくれたお母さんのレスリーさんが再婚相手に撃たれて亡くなってしまうっていう出来事がありました。それ以来SNSで母親を亡くした悲痛な思いを表にしながらも彼は活動を止めず動き続けています。さらにはシングルマザーの家庭をサポートする「Single Moms Are Superhero’s」という基金を発足させて意識的に社会活動に貢献していたりもします。スパイダーマンの話自体を知っている人なら分かると思うけど、スパイダーマンも大事な人を失って自らのスーパーパワーを人助けのために使おうと決心するという大事なストーリーがあるんです。あまりこういう実際の悲しい出来事と重ね合わせるのどうかと思いつつも、それでもシーンを引っ張っていくさらには社会をより良くしていこうと活動まで行なっていく彼の力強さ、本当に尊敬します。
そんな映画界に新しい波を起こした革新的な映画と、同じく音楽業界に大きな影響を与えているプロデューサーのコラボは話題性だけじゃ無くて、映画のクオリティも確実に高みに持っていっているので、ぜひ映画と合わせてサントラをチェックしてみてください!以上TJOでした!