65th Grammys/第65回グラミー賞まとめ
今年もアメリカ時間2022年2月5日に開催された北米音楽界最高の栄誉とされる第65回グラミー賞について気になった結果と簡単な解説をまとめました。昨年4月に延期&ラスベガスで開催されたセレモニー、今年は場所をLAに戻しクリプト・ドットコム・アリーナにて開催。アメリカの30分間の政治風刺ニュース風のテレビ番組『ザ・デイリー・ショー』の司会でも知られるコメディアンのトレバー・ノアが3年連続で司会を務めました。
“Entertainment Tonight”でのダイジェストはこちら
僕のSpotifyプレイリスト“TJO Crates”でも今日紹介したアーティストの楽曲も追加するのでぜひ曲と合わせて楽しんでください。
1. グラミー賞とは:
1959年から始まった世界最大の音楽賞。非営利団体「レコーディング・アカデミー」によって主催され、その会員の投票によって賞が決定されます。しかし近年世間の評価とズレた受賞結果などが批判を受け、会員の人種や年齢層の幅を増やし、さらには主要4部門の最終選考に関与していた秘密委員会を廃止するなど大きなテコ入れを行なってきました。それでも未だに拭えない受賞結果の不透明さやそれも影響した視聴率の低迷など、今の時代との乖離を指摘されています。
2. 今回のノミネート状況
今回のノミネート対象作品は2021年10月1日から2022年9月30日に発表されたもの。
Beyonceが最大9部門、それに続くのがKendrick Lamarの8部門、Adele、Brandi Carlileの7部門、Harry Styles、Mary J. Blige、DJ Khaled、Futureなどが6部門。特にグラミー賞史上最多となる88部門にノミネートされたBeyonceの受賞結果が注目されていました。
ただ「誰が受賞した/しない」の結果が毎年の話題となるこの授賞式ですが、グラミーの歩んできた歴史、特にここ数年の動きから単に結果が出れば「それが素晴らしい/評価された」とその華やかさを称賛するだけでなく、その結果に今の世の中がどう反応しているのかをその後も含めてしっかりと見ていく事が大事だと思います。
辰巳JUNKさんによるここ数年のグラミー低下の流れについて書いているCINRAでの記事
「揺らぐ『グラミー賞』の権威。ビヨンセら黒人アーティスト不遇への批判、問われる存在価値」
中でも竹田ダニエル氏のVOGUEでの記事はその視点において学びのあるものだったので紹介させてください。
「グラミー賞が“オワコン”にならないために」
3. Beyonce史上最多受賞も‥
当初はレッドカーペットや最優秀R&Bソング賞の受賞の際にも登場せず欠席?と噂されましたが、渋滞に巻き込まれての遅刻が原因だったそう。
受賞結果は以下
最優秀R&Bソング賞「CUFF IT」
最優秀トラディショナルR&Bパフォーマンス「PLASTIC OFF THE SOFA」
最優秀ダンス/エレクトロニック・レコーディング「BREAK MY SOUL」
最優秀ダンス/エレクトロニック・アルバム賞「RENAISSANCE」
この4部門受賞でグラミー賞における史上最多32回受賞の記録を打ち出しました。
ダンス/エレクトロニック・アルバム賞は2021年のKaytranada受賞をキッカケに、2022年にBlack Coffeeと3年連続の黒人アーティストが受賞。
ダンス/エレクトロニック・レコーディングはDonna Summer、Janet、Rihannaに次ぐ4人目の黒人女性受賞者となりました。
というのも今回のアルバムはコロナ渦を経たダンスミュージック回帰の作品としてハウス・ミュージックを大きな要素として取り入れ、そのルーツとなった黒人LGBTQ+コミュニティを讃えるという意味でも最も意義のあるアルバムでした。彼女はスピーチの中でゲイと公言していた叔父に、そしてクィア・コミュニティに大きな賛辞を送っていました。そういった意味でもこのアルバムがダンス部門でしっかりと評価されたことは大きな意味を持つでしょう。
ただ結果的に今回の主要4部門は受賞せず、またしても世間のグラミーへの疑問を残すこととなりました。
4. 主要4部門の結果は?
ちなみに主要4部門とは以下の4つ、今年の結果と合わせてどうぞ。
A. Record Of The Year (最優秀レコード賞):Lizzo – “About Damn Time”
アーティストだけでなくプロデューサー、エンジニアなど関わった全員が授賞
B. Album Of The Year (最優秀アルバム賞):Harry Styles – Harry’s House
C. Song Of The Year (最優秀楽曲賞):Bonnie Raitt – “Just Like That”
ソングライターが授賞の対象作曲家、作詞家にフォーカスした賞
D. Best New Artist (最優秀新人賞):Samara Joy
Lizzoはルッキズムやボディシェイミング(外見や体型を馬鹿にしたり、批判する行為)による苦痛を受け、うつ病やセラピストに通う経験をしながらも常にポジティブな発信で世の中を勇気づけてきました。そんな彼女は受賞スピーチの中でミネアポリスで活動をしていた時期に自分をフックアップしてくれたPrinceが亡くなってから「自分はポジティブな曲を作り続けていこう」と決めたこと、また小学校の時に学校をサボってBeyonceのライブを観に行って人生が変わったと彼女への感謝の気持ちを述べていました。Lizzoは今年のフジロックのヘッドライナーとして出演予定です。
またダンス部門のリミックス賞はこのLizzoの「About Damn Time」のPurple Disco MachineによるRemixが受賞しました。
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アルバム賞を受賞したHarry Styles は自身の心の中を冠した「Harry’s House」が自身の経験からくる内省的な心情をインディーロックサウンドと共に作品として昇華し評価されました。アイドルや元アイドルへの冷遇も指摘されるグラミー賞の中で受賞はしましたが、スピーチの中で発信した言葉がキッカケで炎上しています。
新人賞のSamara Joyは23歳とは思えないブルージーな歌声でジャズの名門レーベルVerveと契約した注目株。
5. トランスジェンダー女性として初の受賞
Beyonceの項目でも触れたLGBTQ+コミュニティにとって大きな話題もここに。
Kim PetrasがSam Smithとの大ヒット「Unholy」が最優秀ポップ・デュオ/グループ・パフォーマンス賞を受賞。
トランスジェンダー女性がグラミーを受賞したのはこれが初めて。
彼女はスピーチで2年前に急逝したトランジェンダーアーティストのSOPHIEへ追悼の言葉を述べ、LGBTQ+の権利を広めてくれたMadonna、そして何よりも自身を女性として応援してくれ支えてくれた母親への感謝の気持ちを伝えていました。
6. 豪華!HIPHOP50周年トリビュート
Kendrick Lamarは”Mr. Morale and the Big Steppers”で最優秀ラップ・アルバム賞を受賞し、圧倒的な存在感を示してくれましたが、
そんなHIPHOPの生誕50周年を祝うスペシャルな企画が大きな注目を集めました。
The RootsのQustloveが指揮を取り、総勢33名のレジェンダリーなアーティストが勢揃い。
Grandmaster Flashの“Flash to the Beat”/“The Message”=正真正銘のHIPHOPの起源からスタートし、GloRillaやLil Uzi Vertの最新ヒットまでを網羅した”分かってる”パフォーマンスは圧巻の一言。
こちらは「百聞は一見にしかず」動画をどうぞ。
以下セットリストとなります。
Grandmaster Flash, “Flash to the Beat”/“The Message”
Run-DMC, “King of Rock”
LL Cool J and DJ Jazzy Jeff, “I Can’t Live Without My Radio”/“Rock the Bells”
Salt-N-Pepa, “My Mic Sounds Nice”
Rakim, “Eric B. Is President”
Chuck D and Flavor Flav, “Rebel Without a Pause”
Black Thought and LL Cool J interlude (“Rump Shaker”)
Posdnuos of De La Soul, “Buddy”
Scarface, “Mind Playing Tricks on Me”
Ice-T, “New Jack Hustler (Nino’s Theme)”
Queen Latifah, “U.N.I.T.Y.”
Method Man, “Method Man”
Big Boi of Outkast, “ATLiens”
Busta Rhymes, “Put Your Hands Where My Eyes Could See”/“Look at Me Now”
Missy Elliott, “Lose Control”
Nelly, “Hot in Herre”
Too Short, “Blow the Whistle”
The Lox and Swizz Beatz, “We Gonna Make It”
Lil Baby, “Freestyle”
GloRilla, “F.N.F. (Let’s Go)”
Lil Uzi Vert, “Just Wanna Rock”
またMigosのQuavoが昨年亡くなったメンバーのTakeoffにトリビュートを捧げたライブも話題を集めました。
7. 日本人2人受賞、追悼コーナーでは高橋幸宏さんも
今年は日本人の受賞も大きな話題となりました。
最優秀グローバル音楽アルバム部門=Masa Takumi (宅見将典) – “Sakura”
最優秀コンテンポラリー音楽楽器アルバム部門=Snarky Puppy – “Empire Centra” (パーカッショニストの小川慶太)
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また他界したアーティストを追悼コーナーでは1月11日に亡くなったYMOの高橋幸宏さんが紹介されました。
以上、今年の気になったグラミー賞トピックをまとめました。
他に個人的に嬉しかった受賞は、
最優秀プログレッシブR&Bアルバム=Steve Lacy – “Gemini Rights”
最優秀ラテン・ロック/アーバン・オルタナティヴ賞=ROSALIA – “MOTOMAMI”
最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバム賞、最優秀オルタナティヴ・ミュージック・パフォーマンス=Wet Leg
また今年は新設部門が5つあり、その中にゲーム音楽の部門が新たに作られたことも新時代のスタートを感じさせてくれました。
最優秀ビデオゲーム・インタラクティブメディア作品スコア・サウンドトラック=『アサシン クリード ヴァルハラ』DLC「ラグナロクの始まり」
以上、改めて今年のグラミー賞総括。ぜひSpotifyのプレイリストと一緒に楽しんでくださいね。