64th Grammys/第64回グラミー賞
今日はアメリカ時間2022年4月3日に開催された北米音楽界最高の栄誉とされる64th Grammys/第64回グラミー賞について気になった結果と簡単な解説をまとめました。本来1月31日にLAで開催予定だったのが無期限延期され4月3日にラスベガスで開催。ちなみに「去年後半〜年末にかけて話題だったアレ入ってないじゃないか」というものもありますが、今回の対象作品2020年9月1日から2021年9月30日に発表されたもの。去年はコロナ渦でリモート授賞式だったりライブが収録だったりしましたが、今年はしっかりとリアルに会場で行われて本当に良かった。
“Entertainment Tonight”でのダイジェストはこちら
今回は僕のSpotifyプレイリスト“TJO Crates”で紹介したアーティストや楽曲も追加したのでぜひ曲と合わせて読んでもらえるとさらに楽しめると思います。
1. 圧巻のSilk SnonicとプロデューサーD’Mile
グラミー賞には主要4部門という主だったカテゴリーがあります。
A. Record Of The Year (最優秀レコード賞)
B. Album Of The Year (最優秀アルバム賞)
C. Song Of The Year (最優秀楽曲賞)
D. Best New Artist (最優秀新人賞)
アルバム賞と新人賞は分かるとして、レコード賞と楽曲賞は何が違うかというと
Record Of The Year (最優秀レコード賞) = 最も優秀な1曲単位のレコーディングに贈られる賞なので、アーティストだけじゃなくて、プロデューサー、レコーディング、ミキシングエンジニアなど関わった人全てが授賞の対象
Song Of The Year (最優秀楽曲賞) = 最も優れた楽曲に贈られる。ソングライターが授賞の対象
なのでレコード賞は制作チームに、楽曲賞は作曲家、作詞家にフォーカスした賞ということ。
そして今年その両方を獲得したのがSilk Sonicの”Leave The Door Open”。彼ら去年もグラミー出てなかったっけ?という意見もあるけどこの曲がリリースされたのは2021年の3月5日なのでノミネートは対象外。ただしSNSでBruno Marsが「グラミーに出してよ!」の直談判でライブで出演してSNSで話題になったので2年連続のイメージがあったんです。去年から伏線張って堂々とW受賞はさすが王者の貫禄。スピーチにはSilk Sonicの二人、Bruno Marsとanderson .Paak、さらにプロデューサーのD’Mileが登壇。
D’Mileは去年の最優秀楽曲賞=H.E.R. – “I Can’t Breathe”も獲っているので実質2年連続の受賞し、さらには今年のBest Traditional R&B PerformanceでH.E.R.の”Fight For You”、Best Progressive R&B AlbumでLucky Dayeの”Table for Two”のプロデュースも手掛けているので現行R&B無双状態。H.E.R.流れでいうと彼女のシンガーながらもLenny Kravitzと並び堂々とギターをかき鳴らす圧巻のパフォーマンスも最高でしたね。
2. 誰からも愛されるJon Batiste
もう一人の注目株といえばやはりこの人。主要部門のみならずジャズ、R&B、ルーツ、クラシカルとジャンルを横断し今年11部門で最多ノミネートを誇っていたJon Batisteが最多の5冠を達成。ジュリアード音楽院卒でピアノの学士号も持ち、ジャズからソウル、クラシックまで幅広い音楽性で作品を発表、さらにディズニーPIXARの映画『ソウルフル・ワールド』のサントラも手掛けて受賞したり、アメリカのTVトークショーのバンドリーダーも務めるなど知名度も抜群。のみならず”Love Riots”なる平和活動も早くから行い、2016年の経済誌フォーブスの「世界を変える30歳未満の30人」にも選ばれるなど活動家としての顔を持つとにかくハイブリッドな人。グラミー受けする「古き良き」オーセンティックさだけでなくHIPHOP/R&B以降のストリートさも兼ね備えた楽曲もカッコ良いのでオススメです。
3. 意外な結果のOlivia Rodrigo
主要4部門全部にノミネートされBillie Eilishに続く驚異の4部門独占になるかと思われていたOlivia Rodrigoは最優秀新人賞のみ(もちろん“dlivers license”でBest Pop Solo Performanceを、アルバム『Sour』でBest Pop Vocal Albumを受賞はしています)。これに関してはグラミーの選考の特徴やクセについて非常に分かりやすく書かれた辰巳JUNKさんの記事がオススメなのでぜひ読んでみてくだい。
ただ個人的にはまだ若いのに“dlivers license”など名曲を生み出すシンガーソングライターとしての力は凄いと思うのでもう少し獲っても良かったかなと。
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4. 賞は逃したけどやっぱり存在感のあったBTS、Lil Nas X、Justine Bieber
先のOlivia Rodrigoからの話の流れでいうとこの3組には獲って欲しかったというのが本音。Best Pop Duo/Group Performanceを受賞したDoja Cat x SZA – “Kiss Me More”はもちろん大好きな曲だし、「まさか獲れると思ってなかったからトイレに行ってた」Doja Catの面白エピソードと感激の涙が印象的だったスピーチも素敵だったけど(式当日に足を怪我して松葉杖を突きながら登壇するSZAをサポートするLady Gagaも素敵!)、2年連続でノミネートされ「世界一ビッグなバンド」と紹介されながらも今年も受賞を逃したBTS。スパイ映画をイメージしたライブも最高で「この日の最も名誉な事はBTSと写真を撮る事」なんて言われていた彼らの勢いや世界へのエンパワーメントぶりを考えるとそろそろ来年あたりには獲ってもらいたい!
Jack Harlowと素晴らしいパフォーマンスを見せてくれたLil Nas Xも受賞は逃したもののジャンルを超えた影響力にこれからも期待できるし、何よりグラミー賞での楽しそうな様子はとってもポジティブ見ているこちらまでワクワクしてしまった。
Justine Biebeのアルバム『Justice』rも前作以上に客演の選定も含めてR&Bという形に向き合った意欲作だったしJon Batisteに次ぐ8部門ノミネートだったのでグラミーの話題性を上げるだけではない評価をされても良かったかなと思いました。
5. Ye強しラップ部門
YeさんことKanye WestがBest Rap Songで”Jail”、Best Melodic Rap Performanceで”Hurricane”受賞の2冠。いろいろゴシップや問題児っぷりの方が話題になる彼ですがやはり作品は有無を言わさずのクオリティの証拠。”Hurricane”の方は去年の最大の謎「一個もノミネートされなかった」事件のThe Weekndがfeat.されていてここで受賞しちゃうという皮肉っぷりも。Best Rap PerformanceにはKendrick Lamarの従兄弟にあたるBaby Keemのケンドリックも参加した“family ties”が。個人的に嬉しかったのはBest Rap AlbumにTyler, The Creatorのミックステープカルチャーにオマージュを捧げたアルバム『Call Me If You Get Lost』が受賞して、彼は前作『IGOR』に続いて2作連続受賞の快挙!『IGOR』はメロディや歌心にフォーカスしていて共にコンセプトが違うのにどちらでも録るのはさすが。パフォーマンスではNasによる生バンドアレンジでの“I Can”〜”Made You Look”〜”One Mic”〜”Rare”のメドレーに痺れましたね。
6. 忘れちゃいけないダンス/エレクトロニック部門
DJ的にいつも注目するのはこの部門。あまり現場感ないノミネートや受賞も例年あるんだけど今年は納得の二組が受賞。Best Dance/Electronic Recordingにはここ数年で一気にヨーロッパを中心に知名度を上げたオースオラリアのエレクトリック・バンドRüfüs Du Solの”Alive”が、Best Dance/Electronic Music Albumには南アフリカ発のディープハウスDJとして今や代表的存在となったBlack Coffeeのアルバム『Subconsciously』が受賞。このアルバムはディープハウスを基調としながらもルーツであるアフリカのアーティストからPharrellやUsher、さらにはDavid GuettaやDiploといった文句なしの豪華客演陣まだ招き、ゲッタやディプロの存在があってもなお一貫したルーツに根差した作風でまとめられているのだから受賞も納得でしょう。
7. 反戦を歌ったJohn Legendとウクライナ出身のアーティスト
今年のグラミーのメイントピックと言って良いでしょう。ウクライナのゼレンスキー大統領の「静寂を皆さんの音楽で満たして欲しい」というビデオメッセージと共にJohn Legendが新曲となる“Free”を、ウクライナ出身の歌手ミカ・ニュートン、バンドゥーラ奏者のスザンナ・イグリダン、詩人のリューバ・ヤキムチュクと共にパフォーマンスし平和への祈りを捧げました。この状況の中、このスピード感で大統領自らがメッセージを発信し、平和へのパフォーマンスを実現出来た事に北米エンタメの底力を見せつけられた気がします。スピーチの全容はこちらから。
8. ロック:悲しみのFoo Fighters、そして最優秀プロデューサーJack Antonoff
反戦といえば、もしFoo Fightersが3月25日にドラマーのTaylor Hawkinsを失っていなかったらきっとBest Rock Songに輝いた“Waiting On A War”をライブで披露していたでしょう。メンバーの突然の訃報に世界中が悲しみにくれました。Billie Eillishはこの日の”Happier Than Ever”のパフォーマンスでTaylor氏の顔がプリントされたTシャツを着用し追悼を捧げ、50歳という若さで急逝したレジェンドへのトリビュートも行われました。またProducer Of The Year, Non-Classicalに輝いたJack Antonoffは、Taylor SwiftやLana Del Rey、Lordeなど特に女性シンガー・ソングライターから絶大な支持を受ける気鋭のプロデューサーで、その彼が携わった僕も好きだったSt. Vincentのアルバムも見事にBest Alternative Music Albumに輝くなど、D’Mileと同じく勢いを感じさせる納得の受賞となりました。
9. 星のカービィ受賞?!
ちょっとメインどころの受賞からは離れますが、最近ゲームに関する仕事も増えてきていて反応したのと、日本発のコンテンツだったのでこれにも反応。Best Arrangement, Instrumental or A Cappella(最優秀インストゥルメンタル編曲賞)にジャズ・ポップスオーケストラThe 8-Bit Big Bandの任天堂の1996年「星のカービィ スーパーデラックス」の”メタナイトの逆襲”のアレンジバージョンが選ばれました。今のゲームの勢い考えるとグラミー賞に今後どんどんゲーム関連の名前見る事になりそうな、そんな予感を感じさせます。
以上、ざっと今年の気になったグラミー賞トピックをまとめましたが、あなたが気になったのはありましたか?
改めてぜひSpotifyのプレイリストと一緒に楽しんでくださいね。
Grammy Awards 2022 Full Winners List
Record of the Year – “Leave The Door Open,” Silk Sonic
Song of the Year – “Leave The Door Open,” Silk Sonic
Album of the Year – “We Are,” Jon Batiste
Best New Artist – Olivia Rodrigo
Best Pop Solo Performance – “Drivers License,” Olivia Rodrigo
Best Pop Duo or Group Performance – “Kiss Me More,” Doja Cat feat. SZA
Best Traditional Pop Vocal Album – “Love for Sale,” Tony Bennett & Lady Gaga
Best Pop Vocal Album – “Sour,” Olivia Rodrigo
Best Dance Recording – “Alive,” Rüfüs Du Sol
Best Rap Album – “Call Me If You Get Lost,” Tyler, the Creator
Best Rap Performance – “Family Ties,” Baby Keem, Kendrick Lamar
Best Rap Song – “Jail,” Kanye West, Jay-Z
Best Latin Pop Album – “Mendó,” Alex Cuba
Best Musica Urbana Album – “El Último Tour Del Mundo,” Bad Bunny
Best American Roots Performance – “Cry,” Jon Batiste
Best R&B Performance – “Leave The Door Open,” Silk Sonic + “Pick Up Your Feelings,” Jazmine Sullivan [TIE]
Best R&B Song – “Leave The Door Open,” Silk Sonic
Best R&B Album – “Heaux Tales,” Jazmine Sullivan
Best Country Solo Performance – “You Should Probably Leave,” Chris Stapleton
Best Country Duo or Group Performance – “Younger Me,” Brothers Osborne
Best Country Song – “Cold,” Chris Stapleton
Best Country Album – “Starting Over,” Chris Stapleton
Best Rock Performance – “Making a Fire,” Foo Fighters
Best Rock Song – “Waiting on a War,” Foo Fighters
Best Rock Album – “Medicine at Midnight,” Foo Fighters