[TJOコラム] “hyperpop” Special on J-WAVE “SONAR MUSIC”
昨夜はJ-WAVE “SONAR MUSIC”で「hyperpop(ハイパーポップ)」特集の解説ゲスト出演してきました。
年始の放送で「2021年来る邦楽アーティスト」としてウ山あまねさんをオススメして、そこから「hyperpop特集やりたいね」と話して1ヶ月以内に、ウ山さん御本人もお招きして実現するというスピード感!あっこゴリラさん、木村さん、宇野さん、スタッフの皆さんありがとうございました!
hyperpopというムーブメントはその成り立ちや経緯など、いろいろな側面があるので語る人によって違うと思うけど、これを読んでいる「どんなサウンドなの?」というあなたにとって入門編になったら良いなと思います。
radikoでも昨夜のアーカイヴ聴けます。けど1週間だけなので、その備忘録も兼ねて。
アーカイブ:来週月曜の夜まで
PART1 https://radiko.jp/share/?sid=FMJ&t=20210125210000
PART2 👉 https://radiko.jp/share/?sid=FMJ&t=20210125223000
・hyperpopとはどんな音楽?
打ち込みをメインにベースミュージックやトランスなど、いろんなジャンルをごちゃ混ぜにして、トラックはもちろんヴォーカルにも過剰な展開やエフェクトを加えて、それをポップに落とし込んだ実験的なサウンド。メジャーなところでCharli XCX、そのプロデューサーも務めるA.G. Cookや、最近だと特に100 gecs(ワン・ハンドレッド・ゲックス)というユニットが人気で、2019年にリリースしたアルバム「1000 gecs」は、このアルバムを聴けば何となくhyperpopがどんなサウンドかイメージしやすいほど今のムーヴメントを象徴する1枚になっていると思う。
100 Gecs – “Toothless”はラジオでも紹介した1曲。正確には2020年に出た”1000 gecs”のリミックス盤に収録されている曲なんだけど、Marshmelloの”Alone”をサンプリングしているという意味でも最初に聴かせやすくて。トラップとトランスを混ぜて、そこにエモ・ラップを感じさせるピッチを高くしたヴォーカル、そして後半からさらにトランシーさが増し、ビートの音が割れたりテンポも変わったりと、過剰なまでの展開が繰り広げられるのが分かりやすい。オフィシャルMVもある“money machine”の方が再生数も多いから良いかなと思ったんだけどFワードかなり入ってるので避けました(笑)
・hyperpopの起源
諸説あるけど、インターネット上でSoundCloudを中心としたナイトコア(原曲のテンポを高速化させたリミックスのジャンル)のシーンで”hyperpop”という言葉が使われたのが初めと言われているらしく、2010年半ばからA.G. Cookが主宰するレーベル”PC Music”を中心にそういったサウンドが広がってきて、2019年にSpotifyで「heyperpop」というプレイリストができてから僕はその言葉を意識するようになった。
・初期の頃と今の違いと、ポップシーンとのリンク
2015年前後は”バブルガムベース”とも呼ばれて、ユーロポップ的なキャッチーなポップス感とベースミュージックの融合ってイメージで、ここ最近のhyperpopの分かりやすい変化としてはアメリカのヒップホップ、トラップやロックの影響も強いエモ・ラップを取り入れてその要素がさらに色濃くなった印象。
2015年ごろのサウンドとしてPC Musicのコンピ第1弾に収録されていたA.G. Cookの”Keri Baby”と、盟友ともいえるSOPHIEの初期傑作”Lemonade”を。
この二人の活躍が特にめざましく、A.G. Cookはレーベル”PC Music”を主宰していくのと合わせてCharli XCXのプロデュースを2016年からほとんどを手掛け、SOPHIEは”Lemonade”が海外のマクドナルドのCMで使われたり、2015年にはMadonnaの”Bitch I’m Madonna feat. Nicki Minaj”をDiploと共同プロデュース。同年には安室奈美恵の”B Who I Want 2 B feat. HATSUNE MIKU”も手がけ、さらには2018年のデビューアルバム「Oil of Every Pearl’s Un-insides」がグラミー賞にノミネートされたりとこういったサウンドが世界に広がる大きなキッカケになったはず。
特にCharli XCXとA.G. Cookの関係は根強いもので、2017年の10曲入りのミックステープ「Number 1 Angel」のほとんどの曲をA.G. CookとSOPHIEでプロデュース。これが当時のローリングストーンをはじめとする数々のメディアの年間ベストにランクインし、ポップシーンのど真ん中にいた彼女がそこからA.G. Cookとガッツリ組むように。去年出た最新アルバム「How I’m Feeling Now」にももちろんA.G.はガッツリ絡んでて、この作品もイギリスの最も優れたアルバムに送られるマーキュリープライズ賞にノミネートされたり、数々の年間ベストに選ばれている。A.G. Cookの手腕は見事で、時に強烈な個性を爆発させる実験的な曲もあれば、ビルボードヒッツ的なポップス曲を作ったりとバランス良く対応できるのも凄いところ。
同じA.G. Cookプロデュースでもバブルガムベースと呼ばれてた2017年の”3AM (Pull Up)”と、そこから3年の時を経てよりhyperpop的な激しさを増した2020年の”pink diamond”を聴き比べてみると面白いのでぜひ。
・日本におけるhyperpop
個人的にも日本のシーンは凄くサウンドに昔から親和性があると思っていて、最近だとラッパー/シンガーの4S4KI(アサキ)やS亜TOHというユニット、去年の秋にはtomadさん主宰のネットレーベル”Maltine Records”からhyperpopをテーマにしたコンピも出たりと、「これぞ!」という直球でなかったとしてもどこかリンクするものが多い気がする。
特にそのマルチネのコンピにも参加してるウ山あまねさんのEP「Komonzo」にはドギモを抜かされて今年の頭に”SONAR MUSIC”で紹介したわけなんだけど、そのウ山さんにインタビューする機会ができたのはとてもありがたかった。本人は実際にそういったサウンドに影響を受けたことは認めつつも、”hyperpop”という括りでカテゴライズされることに「それだけじゃないぞ」という抵抗感を感じているのを正直に語ってくれたが(ここでのあっこゴリラさんの「カテゴライズの居心地の悪さ」という返しはお見事だったな)、このムーブメントの根幹にある過剰さ、異様さがジャンルの面白さに直結してるのが興味深いとも話してくれた。ここでウ山さんが刺激を受けたというloginの”2EYES”、そして僕が新年の放送で紹介した彼の曲“セロテープデート”を。
・今後のhyperpop
僕個人の見解としては、自然発生的に生まれたムーヴメントなので「こういうとこで紹介されたらもうHypeだよ」なんて意見もあるだろうし、ウ山あまねさんだけでなくその中心にいるとされている100 gecsですらどこかのインタビューで「hyperpopと思ってやってない」って言ってるぐらいなんで、この呼び名自体変わるかもしれないけど、Chali XCXだけでなくRina SawayamaやKim Petrasといったメジャーシーンでその要素を意識的、もしくは無意識に取り入れているアーティストは多いので今後もさらにポップシーンとリンクして面白い流れを作っていきそうだし、インディーでもどんどん独自の進化をしていきそうな気がする。面白い傾向としてSOPHIEやArca、そして100 gecsのメンバーのLaura Lesなどトランスジェンダーを公言しているLGBTQのアーティストが多いというのもあって、この話をラジオでしたらあっこゴリラさんが「音楽性が極度の内/外に向いている時点で、いろんな枠組みや固定概念を崩しに来てる感じがする」って言っていてその解釈が面白いなと思った。そんなhyperpopが注目されている一例として100 gecsが最近、Linkin Parkの名盤「Hybrid Theory」の20周年記念に彼らの”One STep Closer”のリミックスを手掛けたばかりというのも象徴的な出来事だなと。
最後に。今回のラジオでは入門編的な紹介をしたけど今度は今の旬なアーティストをもっと紹介してみたいなと思った。スピード感のあるムーヴメントなので半年後とかにはもっと状況が変わってて名前すら違うかもしれないけど。個人的に気になったアーティストは100 gecsとそのメンバーでもあるDylan Brady、若干16歳というglaiveも新曲ヤバかったし、SEBii、Dorian Electra、ericdoaなど。いろいろいるので僕のSpotifyプレイリスト「TJO Crates」にラジオでかけた10曲+オススメアーティスト10曲=計20曲を追加しましたのでぜひチェックしてみて。そしてあなたもSpotifyの「hyperpop」プレイリスト聞いて好きなアーティスト見つけてみてはいかがでしょう?